德川記念財団理事長
德川家広
とくがわ いえひろ

公益財団法人德川記念財団理事長。1965年生まれ。慶應義塾大、米ミシガン大院(経済学)、米コロンビア大院(政治学)卒業。国連機関勤務を経て、帰国後は文筆家として活動し、2021年より現職。德川宗家第19 代当主。
読書、それも楽しくてわれを忘れる読書は、脳も心も強くする。目が活字を追い、世界を想像し、その世界の中での出来事に感動するだけで、知も情も鍛えられるのだ。新旧内外を合わせて、深く楽しめる3 冊を選んだ。

呪われた町
スティーヴン・キング
永井淳 訳
文春文庫
上1,067円、下1,078円(各税込)
本を読むのは何のため? 楽しいから。私が明快にそう答えられるようになった、いわば出発点の一冊。アメリカの田舎町に吸血鬼がやって来て……と、ひねりのないプロットなのだが、とにかく読ませる。そして本当に怖い。

ボヴァリー夫人
フローベール
芳川泰久 訳
新潮文庫
1,045円(税込)
文学が間違いなく芸術の一分野なのは、テーマではなく書き方、語り口のゆえである。この点を痛感させてくれる近代フランス文学の傑作。田舎の不倫事件を語っているだけなのだが、読後感は壮麗な交響曲を聴いたよう。

半暮刻
月村了衛
双葉社
2,090円(税込)
悪徳ホストクラブに勤める二人の青年。一人はエリート、一人は不幸な生い立ち。時事ネタを絡めつつ、対照的な運命の絡み合いを描いて読ませるが、それ以上に若い魂にとって文学が持ちうる力を説いており、感動的だ。