Interview

日本の歩み まず知ることが大事

オリックス株式会社 シニア・チェアマン宮内義彦

 戦後80年が経ちました。敗戦時は今で言えば小学4年生(当時は国民学校4年生)。夏休みを挟んで世の中がすっかり変わり、子供心にも社会や権威に対する不信感が芽生えたのもやむを得なかったのでしょう。国民は今日の食べ物を確保するのに必死で、餓死する人もいました。高級住宅に駐留する進駐軍を横目に見ながらの復興の日々が始まりました。

 大学3年生のときに大病を患い、自宅療養を余儀なくされました。読書と音楽鑑賞しかすることがないのです。当時は小説ばかりでしたが、それがきっかけで読書が習慣づいたと思います。今90歳なので約70年間、数え切れないほどの本を読みました。私の中では読書は趣味ではなく習慣ですね。

 本は読めば読むほど「学び」につながり、読む人の人生を豊かにします。でも、この年齢になってもまだ知らないことばかりです。それがまた面白い。「もっと知りたい」「追求したい」の思いに駆られ、好奇心が湧いてきます。「本を読まなきゃ」と強制するのでなく習慣づけると、いつの間にか知識が蓄積され、日常がより楽しくなります。

 私はいつも2、3冊を手元に置いて並行して読んでいます。少し気合を入れて読まないと理解が難しい硬い本、そればかりでは気力が続かないので捕物帳のような読みやすい本、両方の中間辺りに位置する、例えば知人から贈呈された著書などです。中間の本は、今、竹中平蔵さんの『日本経済に追い風が吹く』(幻冬舎新書)を読んでいます。
 小説でいえば村上春樹作品は、独特の世界観で毎回〝なぞなぞ〟を見ているよう。読了後も「どういう意味だったのだろうか」と考えさせられますが、新刊が出るとまた読んでしまう。奇想天外のことを書いているけれど「読ませる力」があるのでしょう。カズオ・イシグロ作品はいつも何かを訴えている。村上氏とイシグロ氏、タイプはまったく違いますが、どちらも没入して読んでいます。

 いつも思うのですが、日本の教育現場では、なぜ現代史をもっと詳しく教えないのでしょうか。縄文文化は習っているのに、自分たちが今どうしてここにいるのか、直前のことを知らない方が多い印象を受けます。
 とくに若い人には社会に出る前に、半藤一利著『昭和史』(平凡社ライブラリー)の戦前篇と戦後篇、少なくともこの2冊は読んでいただきたい。読みやすいので、現代史の知識を補うのにちょうどよいかと思います。司馬遼太郎著『坂の上の雲』(文春文庫)もおすすめです。創作を交えた歴史小説であり、明治維新から日露戦争でロシアに勝利するまでの、日本の飛躍期を描いた一冊です。日本がどのようにピークを迎え、その後変わっていったのか、考えていただきたいです。
 もう一冊はやっと訳出されたポール・シェアード著『パワー・オブ・マネー 新・貨幣入門』(早川書房)です。難しいかもしれませんが、読後に新鮮な知識が持てたと思うだけでなく物事の見方が深まるでしょう。

写真右手前が宮内氏。「戦争前の平和な時代。母や姉たちが、幼い私によく読み聞かせをしてくれました」

 今こそ、あらためて日本の教育を見つめ直してほしい。日本は何をして、何をされたのか。中国や韓国などから日本はどう見られているのか。日本の若い世代がのんびりしている間に諸外国の若者は「戦争」ではなく「学び」という手法でアグレッシブに戦っています。「勉強」が堅苦しいのであれば、「読書」という素晴らしい文化があります。本から学びを深めて、世界と対等に渡り合ってほしいです。

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