本の世界にもメンターを持ちましょう
人生を後押ししてくれますよ
タレントイモトアヤコ
モヤモヤを代弁してくれるエッセイならではの爽快感
小学校のとき、さくらももこさんの『もものかんづめ』を読んだのは覚えていますが……。それ以外、本を読んだ記憶はございませんっ。中学、高校時代も部活ばかりしていたので、読書とは無縁の生活でした。本格的に読み始めたのは二十歳になった頃。バラエティー番組のロケで、海外に行くようになってからです。当時(18年ほど前)はスマートフォンやタブレットなんてまだ普及していませんでしたから、空港に着くと、必ず本屋さんに立ち寄るんです。で、何冊か気になったものを購入し、待ち時間や移動時間に暇つぶしに読む、というスタイルが定着しました。
当初は何を読めばいいのか、迷うこともありました。でも、いろいろ読み漁っていくうちに、自分の好みがだんだんわかるようになっていきました。どうやら私はエッセイが好きなのだと。
エッセイは作家さんの裏側が垣間見えるところが魅力です。とくに益田ミリさんの作品は、日常の失敗談や自虐ネタ、ちょっとシニカルな話なんかも盛り込まれていて、ページをめくりながら「わかる、わかる!」って、一人でニヤけちゃいます。なんとなくモヤモヤしていたことをズバッと代弁してくれることもあって、そんなコメントに出合うと、スッキリした気分になります。悩んでいたのは私だけじゃなかったんだって。エッセイと言えば、池波正太郎さん、伊丹十三さん、松浦弥太郎さんの作品も大好きで、私にとってバイブルのような存在。美意識や生き様がそれぞれの視点で綴られていて、惚れ惚れしちゃうんです。本当にみなさん、粋でスマートでカッコいい。時々本棚から取り出して、パワーをいただいています。
最近読んでシビれたのが、松永K三蔵さんの『バリ山行』。第171回 芥川賞受賞作ですよね。普段あまり小説は読まないのですが、この作品は面白かったー。
主人公が会社の同僚たちと登山する山岳小説で、その中に出てくるセリフにハッとさせられました。いわく、日常生活で怖いと感じることはよくあるけれど、じつはそれ、自分たちでつくり出して勝手にそう思っているだけだと。一方、山には本物の恐怖が潜んでいて、我々はそれを実感するために、わざわざ山頂を目指すというのです。仕事で何度も登山をしていますが、確かに山はケガや死と隣り合わせ。この一文を読んで、恐怖の本質を理解しました。
いつか貞子さんのように料理上手になりたい
先輩や顧問の先生など、みなさんにもすでに現実の世界にメンターと呼べる人がいるかもしれません。けれど、それプラス本の世界にもメンターをつくっておくことをおすすめします。悩んだり、壁にぶつかった時に本を開き、“師匠”の言葉を読み返すのです。すると、不思議と冷静になれたり、立ち戻れたり、やる気が湧いてきたりもしますから。
私にも池波正太郎さんや伊丹十三さんをはじめ、師と仰ぐ方が何人かいまして、最近はとくに、沢村貞子さんを慕っています。ご自身の日々の献立をまとめた『わたしの献立日記』を読んで以来、丁寧な暮らしに憧れていて、貞子さんがかつてそうしたように、私も仕事現場に手製の弁当を持参するのを目標にしているんです。うつわや調理器具にも興味が湧いてきて、キッチンが賑やかになってきました。まだまだ真似事ですが、いつか彼女のように、手際よく料理をつくれる素敵な女性になりたいと思っています。
家事なんて無縁だった私が、今日も朝からそぼろ弁当をつくっちゃうんですから。本の力ってすごいですよ、本当に。
イモトさんが最近読んで感銘を受けた
『バリ山行』(講談社)
主人公の波多は、同僚に誘われるまま六甲山登山に参加。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図るための気楽な活動をするようになっていた。しかし、一人のベテラン社員が、あえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」をしていることを知ると……。山と人生を重ねて模索する純文山岳小説
撮影に協力してくれたのは
<市谷の杜 本と活字館>
大正期の建築を復元した、活字と本づくりの文化施設。活版印刷の印刷所のほかに、本づくり体験ができる工房やショップ、カフェが併設されている。
東京都新宿区市谷加賀町1-1-1(大日本印刷)
03-6386-0555
開館時間:10:00~18:00
休館:月曜・火曜(祝日の場合は開館)、年末年始
入場無料
https://ichigaya-letterpress.jp
text:Misa Hasebe / photo:Makoto Kubodera